不動産のまめ知識

シェアハウスを研究する

  • 2016.05.21
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賃貸経営者にとって将来にわたり、一番頭の痛い問題「賃貸住宅の空室率」。

11年前の平成17年から始まった人口減少に比例して空き家も増え続け、平成25 年の空き家の数は、全国で800 万戸以上とも言われています。

賃貸住居はこの内、約430戸を占めています。

これは賃貸住宅全体の約20%を占める数。

しかも、空室率は年々増加傾向にあります。

新築の供給は未だに停滞することなく続いている事が原因で、供給が完全に需要を上回っているのです。

 

そんな状況の中、入居待ちが出るほど満室の状態が続いている、大人気の物件もあります。

そんな物件の一つ、「シェアハウス」

今回は、人気の要素を取り込むことが出来ればと、シェアハウスの人気の秘密を分析してみました。

●シェアハウス人気の秘密


シェアハウスに入居している方の、主な年齢層は20代から30代の若者。

入居する理由に彼らが口をそろえて上げるのが、「コミュニティー」。

安い、便利、新しい、おしゃれ。といった従来とは違う、評価基準です。

SNSが日本でも普及し、新しいコミュニティーに飛び込んでいく事に抵抗を持たなくなって来た、という精神的な風土が影響している事もありますが、この事象は実は特別新しいことではなく、日本に昔からある精神風土に基づいています。

江戸時代の賃貸住宅にあたる長屋等は、部屋が狭く、壁は薄い。井戸、便所、ゴミ捨て場など、共同の設備が多いなど、自然と住民による「コミュニティーの場」が作られやすい環境にありました。

これらの場で自然発生する、「井戸端会議」。これはまさにコミュニティーと言えます。

そう、日本には、そもそも「シェアハウス」を受け入れる精神的風土があったのです。

 

大正時代には、関東大震災をきっかけに、地震、火事に強い、鉄筋コンクリートのアパートがもてはやされ、この時期に数多く建設されましたが、この風土は受け継がれていたようです。

1934 年に新宿区に建てられた「江戸川アパートメント」という物件には、各住戸に水洗トイレ、バスルーム、暖房、ダストシュートまでありましたが、共同施設として食堂、浴場、社交室、床屋等を備えていました。

当時、最新の技術、設計思考で建てられた建物でも、このようなサロン的な共有空間を建物内に持つ建物も多かったそうで、この事からもコミュニティーを大切にする風土が残っていた事を窺い知ることが出来ます。

この状況が一変したのは、戦後になってからです。

 

戦後の焼け野原に大量に住宅を供給すべく、1955年に設立された日本住宅公団は、世界でも例を見ないほどの住居数を、すさまじいペースで供給しました。

このとき、工事の効率を上げるため建物の形状、間取りが標準化されました。

当時供給された集合住宅のほとんどで、プライバシーを重視した間取りが採用されたのです。

そして近年、隣人を知らずに暮らすのが当たり前の生活となりました。

コミュニティーを失ったことにより、隣人への無関心が加速、騒音問題や犯罪を生み、建物にはオートロックや防犯カメラのような設備が付く様になりました。

誤解を恐れずに言えば、このような住居に日本人は、心の奥底でストレスを抱えているのかもしれません。

そのようにとらえると、「シェアハウス」の人気の高さは、隣近所と触れ合うのが大好きな日本人の「原点回帰」なのかもしれません。

●人気のシェアハウス。賃貸物件としての特徴


シェアハウスの形態には、戸建てや事務所ビルをリノベーションしたもの、果てはシェアハウス用に作られた新築集合住宅と、様々です。

その運用方法には、大きく分けて二つのタイプがあります。

管理会社が運営や管理を行うタイプと、入居者達が自身で管理、運営するDIYタイプです。

特徴としては、入居者自身で管理する方法では、管理の手間はかかりますが、設備を共有することで家賃、管理費などの費用を抑えることが出来ます。

一方、管理会社が運営するタイプでは、管理の手間がかかりませんが、設備の共有が家賃、共益費の減額に影響することはありません。

専有面積あたりの家賃を、通常の住宅と比べてみると、同等かそれ以上となっています。

又、シェアハウス全体に共通した特徴としては、敷金、礼金を取らない。家具付きの部屋が多い、といった特徴があります。

そして、冒頭でもご紹介したように、入居者は20代後半から30代前半、収入が安定している社会人が60%を占めます。

どうやら、設備を共有し、賃料を抑えられるから人気、というわけでもない様です。

●シェアハウスから得る賃貸経営のヒント

「シェアハウスの運用」という観点だと、実際に仕組みを取り入れることに躊躇してしまうかもしれません。

ですが、「入居者の需要が、コミュニティーにある」と理解すると、そこには様々なヒントが隠されているのではないでしょうか。

 

例えば

・敷地に余裕があれば、住民同士が集えるスペースを作る。

・住民同士のコミュニケーションが自然と活発になるような、イベントを企画する。

・空いている部屋を住民同士が使える空間として提供する。

知り合いの不動産会社では、入居者対象に低料金で「畑」を貸し出し、畑でとれた収穫物は、住民対象のイベントや即売会で提供しているそうです。

入居者へ「コミュニティー重視の建物であることをアピールする」事に目を向けた時。賃貸住宅の活用方法の一つとして、見出せるものがあるのではないでしょうか。
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